大分地方裁判所 昭和39年(行ウ)2号 判決 1965年12月10日
原告 津久見運輸株式会社
被告 津久見市長
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告が原告に対する市税滞納処分として、昭和三九年八月一二日別紙物件目録記載の建物に対して着手した公売処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
「一、被告は
(一) 昭和三三年一〇月一八日、原告に対する別紙第一表記載の滞納市税合計二、一二七、四七三円の滞納処分として、別紙物件目録記載(1)ないし(6)の建物に対し差押をした。
(二) 次いで、昭和三五年二月二二日、右差押以後納期の到来した市税を加え、別紙第二表記載の滞納市税合計二、九三八、三四八円の滞納処分として、同目録記載(7)の建物外一筆の建物に対し差押をした。
二、其後原告は昭和三七年四月一一日までの間に、右滞納市税のうち本税額及び督促手数料の全額につき納村を了したので、延滞金、延滞加算金のみが未納であるにすぎない。
三、ところが、被告は、昭和三九年八月一二日、右未納金に右各差押以後納期の到来した市税を加え、別紙第三表記載の滞納市税合計二、一一二、七四二円の滞納処分の執行として、前記各建物を公売に付する旨通知し、右公売処分の執行に着手した。
四、しかしながら、右公売処分は次の理由により違法である。即ち、
(一) 右公売処分の基本となる差押は、右のとおり、別紙第一表及び第二表記載の滞納市税のみについてなされ、第三表記載の滞納市税のうち右差押処分以後納期の到来した市税については適法な差押がなされていないから、これを含めて公売処分をなすことは許されない。
尤も、第三表記載の滞納市税のうち、第四、五表記載分について被告主張(一)(二)の各差押のなされたことはこれを争わないが、右の追加差押は滞納処分として同一物件を重複して差押える処分であつて、それ自体国税徴収法その他租税関係法規の許容しない違法な処分であるから、これに基く公売処分は違法である。
(二) 仮に右主張が当らないとしても、地方税法の準用する国税徴収法の規定によれば、不動産を差押えた場合は、法務局に対し差押の登記を嘱託するを要するところ、右各追加差押による登記はなされていないから、この点において右各追加差押は違法であり、従つてこれに基く公売処分も亦違法である。
五、よつて、右公売処分の取消を求める。」
と述べ、
被告の本案前の答弁に対し
「本件公売処分につき異議申立又は審査請求を経ていないことは認めるが、本件公売処分の執行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるので、直ちに本件訴に及んだものである。」
と述べた。
(証拠省略)
被告訴訟代理人は、
本案前の抗弁として、
「一、本件訴は被告のなした滞納処分の取消を求めるものであるところ、原告は右処分についての異議申立又は審査請求の手続を経ていないから、本件訴は不適法として却下すべきものである。なお、本件公売処分の執行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとの原告の主張はこれを争う。
二、また、本件滞納処分については、既に国税徴収法に定める訴提起の期間を徒過しているから、この点においても本件訴は不適法たるを免れない。」
と述べ、
本案の答弁として、
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、
「一、請求原因第一ないし第三項は認める。
二、第一項の各差押以後に納期の到来した市税についても滞納があつたので、被告は、
(一) 昭和三七年一一月一一日、別紙第四表記載の滞納市税合計一六七、〇八〇円につき、
(二) 昭和三九年八月四日、別紙第五表記載の滞納市税合計四一九、四三〇円につき、
それぞれ別紙物件目録記載全建物に対して差押をなし、その旨原告に通知した。而して本件公売処分は、請求原因第一項記載の各差押並びに右各差押に基いてなしたものであるから何等の違法はない。
三、右各差押に基く差押の登記を経ていないことは認めるが、差押の登記は単に第三者に対する対抗要件たるに止まるから、その欠缺によつて差押の違法を来すとの主張は当らない。」
と述べた。
(証拠省略)
理由
一、被告が原告に対する滞納処分として、
(一) 昭和三三年一〇月一八日、別紙第一表記載の滞納市税につき、別紙物件目録記載(1)ないし(6)の建物に対し
(二) 昭和三五年二月二二日、別紙第二表記載の滞納市税につき、同目録記載(7)の建物に対し
(三) 昭和三七年一一月一一日、別紙第四表記載の滞納市税につき、同目録記載の全建物に対し
(四) 昭和三九年八月四日、別紙第五表記載の滞納市税につき、同目録記載の全建物に対し
それぞれ差押(右(三)(四)は原告のいう追加差押)をしたこと、昭和三九年八月一二日、別紙第三表記載の滞納市税に基き、滞納処分の執行として、右各建物に対する公売処分の執行に着手したこと、並びに右第三表記載の滞納市税が第一、二表のそれの未払残額に其後納期の到来した第四、五表記載の滞納市税を加算したものであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二、ところで、本件請求の趣旨によれば、原告は右着手にかかる公売処分の取消を求めるというのであるが、弁論の全趣旨、殊に再三にわたり請求の趣旨を変更しながら、前記請求原因を終始維持せる点及び、被告は昭和三九年八月一二日原告に対し公売の通知をなし、その実行に移つたけれども、結局売却に至つていないことが明らかであること等から原告の主張するところを綜合すれば、むしろ公売処分の前提たる差押処分、就中、前記一の(三)及び(四)の差押処分の取消を求める趣旨と解せられる。
三、しかして、本件訴を提起するにつき、いわゆる訴願手続を経ていないことは原告自ら認めるところであるけれども、前記争いのない事実によれば、被告は既に右各差押に基き公売処分の執行に着手しており、これが訴願手続を経由するにおいては、本件建物の公売処分が完了する等、原告にとり著しい損害を生ずるおそれがあることは容易に諒解し得られるところである。したがつて、原告においては、行政事件訴訟法第八条第二項第二号、地方税法第一九条の一三、同条の四の諸規定により、裁決を経ないで出訴することができるものと解すべきであるから、この点についての被告の抗弁は理由がない。
次に、出訴期間についてこれをみるに、前掲地方税法各条は、滞納処分を組成する各処分に対する不服申立ないし出訴の期間を定めているが、参加差押(前記一の(三)及び(四)の各差押が参加差押と解せられること後記のとおりである)については、特に規定するところがない。しかし、基本たる差押が解除又は取消されない限り、参加差押は交付要求の効力を有するにすぎず、右交付要求に対する不服申立又は出訴は、地方税法第一九条の四第三号に掲げる公告から売却決定までの処分と同様、換価財産の買受代金の納付の期限まではこれをなし得るものと解すべきである。尤も、基本たる差押処分が解除され又は取消された場合には、参加差押は独立の差押の効力を生ずるのであるから、同法条第二号により、これに基く公売期日等に至るまで出訴が許されることになると解される。
そして、本件各建物が基本たる差押に基き公売手続が続行されて未だ売却に至つていないこと前認定のとおりであつて、交付要求の場合と同視すべき参加差押に対するものであるから、結局、本件訴は出訴期間の点においても、適法になされたものということができる。
四、そこで、収税官吏が滞納処分として、同一の建物に対し、右の如く二重の差押(所謂追加差押)をすることは、違法であるか否かについて検討する。
地方税法に定める交付要求及び参加差押に関する諸規定、並びに同法により準用される国税徴収法第八六条によると、滞納者の財産につき既に滞納処分による差押がなされている場合に、右差押の基礎となつた滞納租税以外の滞納地方税を、当該財産の換価金より徴収するためには、交付要求又は当該財産に対する参加差押をなすべき旨定めている。これによると、法は同一財産につき別個の滞納租税により二重の差押(後の差押は参加差押)をなすことを禁止しているものでないことは明らかであるが、本件につき被告が前記一の(一)(二)の差押ある本件物件につき、滞納処分としての差押をなしうる要件を充たした新たな滞納市税に基いて、重ねて前記一の(三)及び(四)の差押をなしたのは、右の参加差押をなした趣旨と解すべきであるから、そこに違法は認められない。
なお、第二の差押が参加差押の要件(滞納処分による差押の要件を充すものについてのみ参加差押が許される)を充す差押である以上、その効力を認むべきであり、仮に右差押を追加差押と称したにせよ、その名称の如何に拘泥すべきものでないことはいうまでもない。してみると前記一の(三)及び(四)の差押を、同一財産に対する二重の差押であるから違法なる旨の原告の主張は理由がない。
五、また、原告は前記一の(三)及び(四)の差押につき、これが登記を経由していないことを理由にその違法を主張するけれども、国税徴収法第六八条は、滞納処分としての差押につき滞納者に対する差押書の送達によつて効力を生ずる旨定めるところであり、差押の登記は第三者に対する所謂対抗要件にすぎないから、右登記の欠缺の故に当該差押自体の違法を来すとは解されない。
六、よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 平田勝雅 前田一昭 田川雄三)
(別紙省略)